ひろがりエピソード
こどもたちは、人や文化、社会との出会いの中で、自らの世界をひろげ、関係をつくりながら育っていきます。
地域から世界へとつながる関係の中で、学びはさらにひろがっていきます。
ここでは、そのつながりの中で生まれた、学びの「ひろがり」のエピソードをご紹介します。
こどもの育ちを支える土台
自ら育ち、
お互いに影響し合う力
学びや育つ力を後押ししよう!
#エンパワーメント~Empowerment~
受け入れあう、こどもたち
0歳から2歳までが共に過ごす保育園のフロアでは、新しい仲間を迎えることが多くあります。
そこでは、すでに在園しているこどもたちが自発的に動き出す姿が見られます。新入園児の様子に合わせてじっと見守り、必要そうなときを見極めて、そっと手を伸ばす。そこには、自分がその子に対して何かできることを見つけ出し、他者を力づけようという意思を感じます。また、新しい仲間が「自分でやってみようとしていること」に対しては、そっと見守ることもあります。
こどもたちは大人に守られ、何でもやってあげる対象から、自ら環境に関わり、状況を変えていく主体へ。ほかのこどもたちを励ます存在へ。
私たちは、こどもたちが自らの可能性を信じ、力強く歩みだす経験を積み重ねられるよう常に願っています。
こどもの成長は、
身体、感情、精神、
知性まるごと全部!
#全体的発達〜Holistic Development〜
想いと知恵を編み上げる
“かかし”づくり
地域のかかしコンクールへの挑戦。準備期間、こどもたちは自分のイメージを言葉にして仲間に伝えたり、相手の言葉に耳を傾ける経験をしていきます。話し合うことにより、お互いの考えに気持ちを寄せ、より良いものをつくろうと協力し合いながら進めていきます。
ここでは論理的な思考(知性)だけでなく、「伝えたい」という情熱(感情)や、相手を尊重する受容心(精神)が包括的に育まれます。
材料選びでも、手触りや重さを確かめながら試行錯誤を繰り返します。このとき、指先の身体的な感覚と「こうしたい!」という強い創作意欲は、切り離せない一つの経験としてこどもの中に深く刻まれていきます。
仲間と相談し、試行錯誤しながらつくり上げた“かかし”は、単なる物質的な作品ではありません。身体、感情、精神、そして知性をフルに使って向き合った、彼らの「生きる力」そのものの結晶なのです。こどもたちの生活の中には、沢山の学びが隠れていますね!
つながりは、
“まち”へもひろがる!
多様な人々と共に生き、つながる
#家族と地域~Family and Community~
まちの一員として、所属し、
貢献し、安心して育つ
まちにある青果店は、こどもたちにとって単なる買い物先ではなく、自分たちを当たり前に受け入れてくれる場所です。
店主とのやり取りは、教え・教えられる関係を超えた、地域の中での温かな共存の姿です。果物について何気ない会話が、こどもたちの中に「自分のまちには、自分たちを大切に考え、たくさん話し合える人がいる」「果物について詳しい人がおなじまちにいるんだ」という揺るぎない所属感を育んでいきます。
まちの人々との関わりの中で自然と育まれるのは「どこへ行っても自分は受け入れられ、一緒に暮らす一員だ」という深い安心感です。保育施設の壁を超え、地域という大きなコミュニティの重要な考えをもつ一員として位置づけられている実感が、挑戦してみたくなる気持ちへと向かっていきます。
園・家庭・地域を一体とした暮らしのなかで、共に生きる。この分かち合いがたいつながりこそが、こどもの存在の基点になると私たちは信じています。
こどもたちは
周りのものごととの
関わりの中で学ぶ
#関係性〜Relationship〜
アゲハチョウと編み上げた、
命の物語
こどもたちが四季を通じて通い続ける公園。そこでの出会いは、単なる観察対象ではなく、共に生きる「仲間」との出会いです。
ある年、公園で採集したアゲハチョウの幼虫。嬉しいことに羽化に立ち会うことができました。日々、虫かごを掃除し、声をかけ、命の重みを感じてきたこどもたち。その眼差しには、一方的な飼育を超えた、命と命が通じ合うような深い関係性が宿っていました。
羽化の瞬間、静まり返った空間に流れていたのは、一つの命を共に支え抜いた仲間同士の連帯感と、自然への畏敬の念です。
人はひとりの頭の中だけで育つのではありません。場所や生き物、目に見えない命の循環すべてと豊かに関わり、響き合うこと。その一つひとつの結びつきが、こどもたちの心を耕し、相互関係の中で育ちます。
土台から広がるこどもの姿
安心し、必要とされている実感の中で 自分を健やかに保つ
#心身の健康・安全・幸福 〜Well-being〜
涙が乾き、
世界へ手を伸ばし始めた朝
初めて保育園へやってきた二歳の子。お母さんの姿が見えなくなった瞬間、大粒の涙が止まりません。保育者はその小さな体をそっと抱き、静かな場所で優しい歌を口ずさみました。やがて少しずつ呼吸が落ち着き、張り詰めていた体の力がふっと緩んでいきます。
保育者の腕から静かに降りて床に座ると、目の前にあった積み木を手に取り、一つ、また一つと積み始めました。その瞳は、もう先ほどまでの不安に揺れてはいません。「ここは安心できる場所なんだ」と、身体の奥底で感じてくれたのでしょう。
自分が守られ、大切にされている。そうこどもが感じられる確かな「安心」があるからこそ、再び外の世界へと心が向いていきます。満たされた心で、自分のペースで歩みを進め、自分から世界に手を伸ばし始めます。
自分らしい場所で、
世界を広げる
#自分の居場所 〜Belonging〜
積み木で囲んだ、
ぼくたちの確かな居場所
午前の遊びの時間、こどもたちは思い思いの場所で過ごしています。ある子が棚から木のブロックを運び、床に並べ始めました。それを見た別の子が「何つくってるの?」と駆け寄ります。「おうちだよ」――その一言をきっかけに、また一人、また一人とブロックを手にした仲間が集まってきました。
「ここはキッチンね」「こっちは赤ちゃんのベッド」。少しずつ形が見えてくると、こどもたちはその囲いの中に自然と座り込みました。「ここ、ぼくたちのおうちだね」。誰かがそう呟くと、みんなが深くうなずきます。その瞬間、ただの床の上だった空間は、こどもたちだけの大切な世界へと変わっていました。
安心して場所を使い、仲間と共に自分たちの空間を作り上げること。その積み重ねが、園を単なる施設ではなく、自分らしくいられる「居場所」へと変えていきます。この確かな所属感に包まれながら、こどもたちは自らの世界を広げ、豊かに育ちます。
こどもは誰もが尊重され、価値ある存在である。
そして、自分の行動によって場をより良くできる力を持っている
#貢献~Contribution~
手話でつながった!
みんなの「だいじなこと」
定期的に開催される「しゅわのじかん」。
それは、こどもたちにとって単なる手話習得の場ではありません。
そこは、多様な人々とつながる喜びを知り、「自分も誰かの安心や参加を支えることができる」と気づいていく大切な時間です。
こどもたちは、普段とは異なる表現方法を持つ人たちと出会い、「どうすれば心を通わせることができるのか」を、こどもたちなりに考え始めます。
手話という新しい表現を知ることで、こどもたちは一つの事実に触れます。
それは、普段使う言葉だけではつながれない人がいるということ。
そして、自分が表現を広げることで、より多くの人と関わり、安心して過ごせる場を自ら広げていけるということです。
そこにあるのは、「言葉が通じなくても、あなたのことを知りたい」「あなたとつながりたい」という、混じりけのない純粋な気持ちです。
こうした経験を通して、こどもたちは学びます。
どんな人も対等な存在であり、誰もがこのコミュニティに欠かせない一員であることを。
手話を覚えることは、単に新しい言葉を知ることではありません。
「自分もまた、誰かが安心して過ごせる場をつくっていけるんだ」
「誰かが参加しやすいように、この場所を支えることができるんだ」
そのことに気づき、自分の行動でコミュニティを少しずつ変えていく。
この「自分には場をより良くできる力がある」という確信こそが、こどもたちにとっての、真の「貢献」のはじまりなのです。
「こどもの声」に耳をすまして、その想いをいま、分かち合う
#コミュニケーション 〜Communication〜
指さしと身振りで紡ぐ、
分かち合いの瞬間
「見て!伝えたい!」――園庭で一人の子が突然こちらに走ってきました。保育者の手をぐっと引き、地面を指さしながら「ん!ん!」と弾むような声を出すその全身が、言葉を超えて「見てほしい」と雄弁に語っています。
指さす先にいたのは、一匹の大きなカタツムリ。保育者が「見つけたんだね」と共感すると、子の瞳はぱっと輝き、今度は両手で殻の形を作り、ゆっくりと体を動かして見せました。その身振りに対し、周囲のお友だちからも「どこから来たの?」と次々に声が上がります。一人の発見が、いつのまにか場全体の豊かな分かち合いへと広がっていきました。
こどもは、指さし、身振り、声、そして言葉など、あらゆる手段を駆使して世界と対話します。「伝えたい」「一緒に見てほしい」という切実な願いが人と人を結び、響き合う。それこそが、私たちが大切にするコミュニケーションの本質です。
不思議に目を向け
自ら問いを生み、世界を確かめる
#探究~Exploration~
バケツの中に広がる、
小さな命の宇宙
こどもたちがよく訪れる駒場野公園の自然観察舎。そこには、身近な動植物が息づき、こどもたちの「なぜ?」を優しく受け止めてくれる専門家の方々がいます。近年は観察舎から苗をいただき、園のベランダで「バケツ稲」の栽培に挑戦しています。こどもたちは折に触れて施設を訪ね、アドバイスを糧に自らの手で育てるプロセスを楽しみます。
「どうすれば大きく育つかな?」と仮説を立て、実物を観察し、得た知識を自分たちなりに試してみる。この能動的な関わりこそが、学びの本質です。職員の方々に丁寧に質問に応えていただく時間は、こどもたちの知的好奇心をさらに深く耕してくれます。
昨年、少量ながらも収穫できたお米。それは単なる成果ではありません。地域の人や場所を頼りながら、不思議に対して粘り強く向き合い続けた、こどもたちの「探究の旅」の誇らしい足跡なのです。