• Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • Instagram
 

スタッフブログ | Staff Blog

『多文化共生社会を目指して』府中市長・東京外国語大学学長・学校法人正和学園 理事長による三者対談

桜の季節が過ぎ去り、瑞々しい緑が豊かに芽吹き始めた東京外国語大学。授業の終わりを告げるチャイムを背に、大学に隣接するPAL国際保育園@東京外大(PAL International School@TUFS 、以下PAL)からはにぎやかなこどもたちの声が聞こえてきます。

2024年4月22日、「府中の多文化・多様性から見る未来の教育と社会展望」をテーマに高野律雄府中市長、林佳世子東京外国語大学学長、齋藤祐善正和学園理事長による三者対談が行われました。【司会:齋藤理事長】

府中というまちで多文化共生を実現するということ

齋藤理事長「はじめに、多文化・多様性という視点から府中市が取り組んでいることについて教えてください」

高野市長「府中というまちの名は、かつて武蔵国の国府があったことに由来します。
東京の中でも古くから都市計画に基づいて発展したエリアで、高度経済成長期を経て現在に至るまでに、国内外から多くの人々が集まる土地になりました。歴史と新しい文化の融合によりまちが発展を遂げ、近年では多様性の実現に関連する事業を展開する部署を設置しました。
市民活動の支援、国際交流サロンの運営など多様なバックグラウンドを持つ人たちがつながる場の提供に力を入れています。東京外国語大学の学生さんたちにもたくさん協力していただいており感謝しています」

林学長「本学は多文化共生のために地域や文化、言葉を学ぶことを使命としている大学です。ですから、学生の皆さんが地域の中で活躍していることを大変嬉しく思います」

齋藤理事長「日本に住む外国の方は「もっと日本のことを知りたい」と思っている方が多くいらっしゃいます。PALでは月2回どなたでも参加できる交流イベントを行っており、皆さんが積極的に参加してくれるのを見て、やはり「つながり」を作る場は大切なんだなと感じております。皆さんは多文化共生を実現する場をどのように増やすことができると思いますか」

高野市長「こども食堂をご存じでしょうか。もともと家庭の中で両親が共働きであるとか、食事の時間を十分に取ることができないこども向けに始まった事業でしたが、現在では日本人の子ども も外国人のこどもも皆が一緒の空間で食事を楽しむ場になっています。僕もこの前お邪魔して、そこにいたこどもたちと友だちになりました」

齋藤理事長「素敵ですね。そこでこどもたちに交流が生まれると大人同士もこどもを通して知り合うことができますよね。国籍、年齢を超えた団らんの時間がもたらしてくれるものは社会的貧困の解決のための大きな鍵になると思います。PALにも学生さんがお手伝いに来てくれることがありますが、保育園の時間だけではなく一緒に帰宅するなど、一歩踏み込んだ関係を構築してもらえたら良いなと考えています」

林学長「本学には学んだ言語を活かして社会とつながりたいと考えている学生が多くいます。つい先日サッカー部がサッカーを英語で学ぶ というイベントを開催していました。齋藤先生がおっしゃるように、もし保育園のこどもたち向けに活動するサークルが発足したら是非支援したいです」

「おもてなし」から「共生」へ

齋藤理事長「私は外国の方をお客さんとしておもてなしするというより、当たり前のように受け入れ共生するという方法で地域社会の組み立てをした方がいいんじゃないかと考えているんです」

高野市長「私も同意です。でも、時間がかかる。日本人が皆英語ができるかと言われたらそうではないし、英語も日本語も話さない方だっています。言葉の壁は多文化共生の実現の一つ大きな課題です」

林学長「あとは「何を常識とするか」ですね。特に気をつけたいことは食事です。宗教により食事の制約がある留学生の中には、毎日お弁当を作って持ってくる学生もいます。先日ハラール弁当の販売を行ったところとても好評で、イスラム教の学生以外もこぞって購入していたと聞きました」

齋藤理事長「確かに、常識は国や地域によって異なりますよね。私どもが運営する保育園には35国を超える多様な国籍を持つこども、先生が在籍しています。例えば日本では特に問題のないこどもの頭をなでるという行為が、文化によってはタブーだとされます。日本の常識は世界の常識ではないことを意識しなければいけませんね」

齋藤理事長「教育と社会展望という観点から、府中をどんなまちにしていきたいと考えていますか?」

高野市長「さらに世界中の人との交流が盛んなまちにしていきたいです。こどもたちにとっても、幼い頃から多様な文化や言葉に触れ、広い視野で見たり考えたりする力を育むことは国際化の進む社会を生きる力になるのではないかと」

林学長「府中はスポーツ活動も盛んですよね。日本人だけのチームはほとんどないのではないかと思います。卒業生がスポーツチームの通訳として働くこともありますし、学生と行政がもっと深く関われたらと思います」

第二の故郷として愛されるまち

齋藤理事長「2050年くらいまでに外国籍を持つ子ども は今の約5倍になると言われています。ただ呼び込むだけではなく、来日後に次の世代を育てていくことができる持続可能性を実現しなければいけません。しかし日本では外国籍のこどもの教育機関があまり整備されていない。外国人の先生を雇うと認可外保育園という立場になってしまい、絞られた場所やルールで運営していかなければならない状況です。こどもたちはもちろんその保護者にとっても、第二の故郷と感じられる温かい場所を作っていきたいです」

高野市長「利便性があり、暮らしやすく、こどもを育てたいまちは安全であることが必須条件です。交流の場を設けたりイベントを開催したり、その全ての根本として安全な社会を維持することが我々の使命だと考えています」

林学長「私も同感です。さらに、言葉が通じないことは警戒心や不安を生み出す原因の一つです。外国から日本に働きに来るという方も多くいますが、彼ら彼女らの家族も含め安心して日本で暮らすことができるように教育や制度を見直すことが必要だと感じます」

林学長「府中には多くの企業、スポーツチーム、そしてその根っこには長く続く歴史と伝統があり、このような素敵な場所に本学があることを光栄に思います。大学にはあまり用事はないけれど、保育園だったら足を運びやすいという方もいますので、保育園も開設した今、さらに大学が地域と交流を持つことができたら嬉しいです」

高野市長「そういえば、友好都市であるウィーン市ヘルナルス区に視察に行った際、現地で働く東京外国語大学の卒業生の方と出会いました。僕が府中から来たと言うと「懐かしいなぁ、大学時代を思い出します」と喜んでくれて、府中が学生にとってもふるさととして愛着が持てる町だと知り、温かい気持ちになりました」

齋藤理事長「ウィーンですか、意外な場所で府中と学生がつながることもあるのですね。最近の保育園は、イベントを通して、多様なバックグラウンドを持つ人が交流する場所になってきていると感じます。こどもまんなか社会という言葉がありますが、こどもをきっかけに大人同士もつながりを持つ様子を見ていると非常に手ごたえを感じます。この先も行政そして教育という立場から、多文化共生を主軸としたまちづくりに力を入れていきましょう」

文章・写真:堀 詩
東京外国語大学・英語科3年の堀詩と申します。2023年6月よりライター活動を始め、2024年2月より「詩の小箱」というホームページを開設いたしました。リズムよく丁寧な言葉で、読者様にわくわくする体験をお届けすることが目標です。趣味は旅行と読書とベリーダンス。https://utanokobako.com/portfolio/