2024 03 18
【地域連携】「普賢寺」さんにインタビューしました
「国際的な僧侶として世界平和の架け橋に」普賢寺住職 小野常寛さん
PAL@TUFSがある府中市は地域に根づいた施設やお店がたくさんあります。今回ご紹介するのは数多くの偉人が眠る多磨霊園の向かい、500年以上の歴史を持つ普賢寺さん。住職の多彩な経歴や、寺カフェをオープンした経緯、今後の展望について、住職の小野常寛(おのじょうかん)さんにお話を伺いました。
留学、就職、転職、起業…「国際的な僧侶」を目指して
「英語が好きだったということもあり、学生時代から漠然と国際的なお坊さんになりたいと思っていました」
グローバルなお坊さんって響きがかっこいいじゃないですか(笑)。そう話す小野さんは中学生の頃から、代々続く普賢寺を継いで国際的な僧侶になることを夢見ていました。入学した都立国際高校では、国際色豊かなクラスメートの影響でさまざまな文化や慣習に触れることができたと言います。
「良いお坊さんになるには仏教の世界だけでなく、社会のことや一般常識といった仏教の外の世界も知らなければならないと思ったんです」
小野さんは仏教の大学に通うこともできましたが、社会勉強のためにもあえて一般の大学を選びました。そして、大学3年生の時に比叡山で最低限の修行をして仏教への理解を深めた後、交換留学でアメリカの大学に行き宗教学を修めました。他の宗教と仏教を比べることで、より仏教への理解を深めることができたと言います。帰国後は社会のことをより深く知るために一般企業に就職。その後転職、起業を経て現職の普賢寺住職に就かれました。
「私が考える『国際的な僧侶』とは、日本の『和』の仏教をもって世界平和の架け橋になることなんですよね」
「どんなに世界中を渡り歩いたとしても、日本人に生まれて日本で育ったという点に関してはまぎれもない事実です。」
日本の「和」(「平和」の「和」)の仏教を深く理解し大切にしつつ、相手の文化・宗教のことも尊重して円満な関係を築くことができる僧侶こそが「国際的な僧侶」であると小野さんは考えます。その中で英語は、自分や他人の考えを理解しコミュニケーションをとるための非常に重要なツールです。学生時代に国際的な視野を持って勉強してきた小野さんは、英語というツールを用いて「国際的な僧侶」になることを目指しています。
身も心も清らかに—「サード・プレイス」としての寺の役割とは
2023年6月、「カフェテラス普賢寺」という名でお寺の境内にカフェがオープンしました。
「日本の寺を活性化するためには、もっと寺を外に開く必要があると思ったんです。カフェを開けば地域の人がたくさん来てくれるだろうし、人がたくさん来るということは住職や寺も研鑽されていくだろうと思ったので、寺カフェを始めることにしました。」
カフェは基本平日にオープンしているので、地域の方やママさんで賑わっています。最近ではテレビの取材でなにわ男子の西畑大吾さんがいらっしゃったことで、ファンが多く訪れる“聖地”になっているそうです。
「寺って都内だけでも約3000カ寺くらいあって。それだけ皆さんの身近にあるんです。でもそれが知られていなくて、行ったことのない人が多いのが現状です。仏教って現代人が抱える精神問題だったり社会問題にもっとアプローチできるんじゃないかと思っていて。だからこそ寺をもっと開かれた場所にしたいんです。」
寺は仏教の教えを体現していると小野さんは語ります。仏教には「六根清浄(ろっこんしょうじょう)」という言葉があり、人間が持つ六根(眼・耳・鼻・舌・身・意)を、欲や迷いを断ち切ることで清らかにするという意味があります。現代人の生活は忙しく、日々情報や時間に追われているとその六根が汚れていきます。お寺に行き、お香の香りを鼻で感じたり、庭を眼で愛でたり、「チーン」という音で耳が清められたりすることで、六根の感覚が研ぎ澄まされ清らかになっていくのです。身も心も清らかになる場所として寺や寺カフェを利用することで、現代人が抱える精神問題にアプローチできると小野さんは信じています。
「カルト宗教的に何かを購入しなさいっていうのじゃなくて、気軽に来れて気軽に帰れるような風通しの良い『サード・プレイス』(※)として身も心も穏やかになれるようなお寺が増えていけばいいなと思っています。普賢寺が一つのモデルになって仏教界全体がもっともっと一般の方と交わっていって、皆さんのためになればと思ってますね。」
※自宅、学校、職場とは別に存在する、居心地のいい「第三の場所」
「〇〇×仏教」で理解を深めるラボを作りたい
寺カフェの他にも学びの場であるラボを作りたい、と小野さんは話します。
「仏教の思想、例えば人生観とか死生観とかっていうものを全く違う何かとかけ合わせることで、物事を厚みをもって理解していくラボみたいなものを作りたいんですよね」
「教育×仏教」、「育児×仏教」など組み合わせは無限大。専門分野である仏教に別の分野の専門家を交えることで、仏教のこともその分野のこともより深く理解できるようになり、新たな価値を生みだすことができます。「PAL@TUFS×仏教」というかけ合わせもできるのではないでしょうか。実は育児や教育って仏教の思想をかけ合わせると考え方をガラッと変えられるんですよ、と自身の経験をもって語ります。
「子育てって仏教の修行のようなものだなって。私も0歳、2歳、4歳の子どもがいるんですけど、なかなか泣き止まなくて眠れない夜が続くと出口のないトンネルを歩いているような気分にもなるんですよね。そんな時に仏教の思想を思い返すと少し楽になるんです。」
お寺を美しく飾り、きれいに準備することを指す「荘厳(しょうごん)」という仏教用語があります。汚れが少しでもあるとそこに目が行ってしまい、自分や仏様に心から向き合えず信心も生まれなくなってしまいます。赤ちゃんも一緒で、おむつ替えや入浴をして汚れを毎回きれいにすることで自分の心も整えている、一つの修行をしていると捉えると気持ちが楽になるのだそう。外で働かずに育児に専念していると、周りと比べてどうしても社会性がないと感じてしまい辛い気持ちになることもあると思いますが、仏教の教えを取り入れると社会に出るよりよっぽど大切な学びを得ていると考えられるようになります。
民族の垣根を越えて日本の仏教に触れてほしい
「今後は地域の繋がりを大切にしながら、日本の仏教を世界に広めていきたいですね。」
このあたりはPAL@TUFSをはじめ、外大やインターナショナルスクールなど国際色豊かな人々が集まる地域です。近くのアメリカンスクールの学生がお寺に日本文化を学びに来てくれたこともあります。最近ではインバウンドの需要も高まっているので、コロナ禍前に開催していた坐禅などの文化体験も再開させたいです。浅草寺や清水寺など日本のお寺は代表的な観光名所となっていますが、ただ観光するだけではその背景にある仏教の精神性というところまでは十分に伝わっていないようにも感じます、と小野さんは話します。
「日本の伝統文化や仏教に流れる精神性をきちんと伝えて、観光で来日した方にも日本の精神文化に興味を持って親しんでもらいたいですね。日本の少子高齢化や人口減少はもう分かりきっていることなので、海外の方とは対立するのではなくどうやって和合していくのかが大切だと思います。知識や経験を活かして、『国際的な僧侶』として世界平和を目指すのが自分の果たすべき役割だと思っています。国籍や人種、民族の垣根を越え、PAL@TUFSの子どもたちも含めたくさんの方にお寺に来てもらって、仏教の心を肌で感じていただきたいですね。」
普賢寺住職・小野さんの挑戦はまだまだ続きます。皆さんもぜひ一度、仏教の心を感じに普賢寺を訪れてみてはいかがでしょうか。
インタビュー・編集:高橋 さくら(東京外国語大学・スペイン語科4年生)
写真:荒井 英美(東京外国語大学・フランス語科4年生)
高橋 さくら
東京外国語大学・スペイン語科4年生の高橋さくらです。学生時代はインターンや大学広報の仕事を通して、国際的に活躍する人や企業への取材に精を出してきました。休日の楽しみは大好きなYouTubeとグミをお供に、ライティングや手芸に没頭すること。
荒井英美
東京外国語大学・フランス語科の荒井英美です。4年次にパリの写真学校に1年間留学し、ルポルタージュとドキュメンタリー写真/映像を学びました。好きなことは弓道と花。和菓子に目がない。